\CONELメンバーインタビュー/
店主の『いちおし』なんですか?
Vol.03 ERI ORDER MADE CAKE/抹茶のマロンパイ
CONELメンバーが作るお菓子は、一つひとつが個性的。
個人で製造から販売まで行なっているお店がほとんどだから、味はもちろん、材料やラッピングまで、作り手の「これが好き!」が詰まっています。
そんな魅力的なお菓子のなかから、店主が選ぶ『いちおし』をご紹介。
三回目となる今回登場するのは、ERI ORDER MADE CAKEの植田さん。
パティシエの経験を活かして作られるお菓子は、どれも真面目なおいしさです。
■断面の美しさにもこだわった、ザクザク食感のマロンパイ
いつも目がないくらいニコニコで、誰に対しても明るく丁寧な植田さん。
阿佐ヶ谷にある「FOOCO」での販売はまだ一年にも満たないが、お客さまに差し入れや旅のお土産をもらったり、常連さんと一緒に飲み屋に繰り出したり、すっかり街に馴染んでいる様子。最近は、「アド街ック天国」の阿佐ヶ谷特集に、シェアキッチンメンバーとして出たことも。
もちろん、彼女の作るお菓子も大人気だ。いちおしは、看板商品でもある「マロンパイ」。
きつね色に焼かれたザクザクのパイの中には、ナッツやバター、カスタードを混ぜ合わせたリッチな食感のクレームフランジパーヌが。主役の栗は、大粒のものがゴロっとひと粒入っている。
やはり「マロン」には、こだわりがあるのだろうか。
「熊本県産の渋皮付きの栗を丸ごと使っています。実は、作りはじめたばかりの頃は外国産の栗を使っていたのですが、常連のおばちゃまに『国産じゃないの~?』とガッカリされちゃって。
他のお客さまにも産地を聞かれることが多かったので『国産の方が安心する方が多いのかな』と思い、国産の栗でもマロンパイを作ってみたんです。どちらの栗も味のクオリティに変わりはなかったので、よりお客さまに安心していただける国産の栗に変更しました。
お客さまとの会話は楽しいし、すごく勉強になります」
それに、と言葉を続ける植田さん。
「いわゆる“映え”も狙って作っています(笑)。なるべく中心に栗がくるように包んだり、大粒の栗だけを仕入れて、切った時の“断面の美しさ”も追求しているんです。目でも楽しんでいただけたら嬉しいです」
SNSにアップされるERI ORDER MADE CAKEのマロンパイの写真に、カットしたものが多い理由がわかった。思わず撮りたくなる、魅力がある。
ちなみにマロンパイの味は、カカオと抹茶の二種類。どちらもおすすめだが、店主のいちおしは「悩むけど、抹茶かな」とのこと。
「はじめに作ったカカオが人気になって、プレッシャーの中で抹茶を開発したので思い入れがあるんです。苦いだけじゃない“うま味と香りのある抹茶味”にしたくて、二種類の抹茶をブレンドしています。
茶道で使う濃茶用の抹茶で香りとうま味を引き出し、製菓用の抹茶で苦みをプラス。さらに脱脂粉乳を加えて、苦いだけで終わらないまろやかな味になるようにしています」
脱脂粉乳を使う理由は、いま起こっているバター不足とも関係するそう。
バターを作ると必ず脱脂粉乳も出来上がるが、これがなかなか消費されない。よって、バターを生産できない。
脱脂粉乳を取り入れることで、パティシエとしてバター不足解消に少しでも貢献したいという思いもあるんだとか。「ほんっと~に微力なんですけどね」と、照れながら教えてくれた。
■Mr.CHEESECAKEで学んだ「おいしさ」以外の大切なこと
お客さまとの会話を通して栗の産地を変えたりと、植田さんのお菓子づくりは食べる人の存在をかなり意識している印象がある。どうしてそう思うようになったのか、聞いてみた。
「8年間勤めたパティスリーを、長時間労働に疲れてしまい辞めたんです。そのあと事務のお仕事もしたんですが、やっぱりお菓子を作りたくて……。
その時に、Mr.CHEESECAKEのタムさんと出会ったことが大きいかもしれません」
植田さんが「タムさん」と呼ぶのは、田村浩二さん。絶品チーズケーキがメディアやSNSで評判を呼ぶ、Mr.CHEESECAKEの代表兼シェフだ。
田村さんが当時Twitterで発信していた、「朝から晩まで働くのが当たり前になっている飲食業界を変えたい、みんなが楽しく働ける環境をつくりたい」という熱い想いに触れ、植田さんは「この人に会ってみたい」と思ったそう。
「その時にちょうど、Mr.CHEESECAKEの立ち上げメンバーを募集していたんです。それで面接に行ったら、有難いことに採用されまして。
はじめのうちは、スタッフは私を含め5人、厨房の脇がすぐ玄関、みたいなちっちゃな組織でした。タムさんはシェフとして賞を取ったりと有名な方なので、目の前で取材をされている横で仕事をする毎日。
すぐ隣でタムさんの考えをお聞きできる、贅沢な環境でした。『おいしいだけじゃダメ』という教えは、今でもすごく意識しています」
植田さんによると、近年お菓子屋さんはどんどん増えているそう。チェーン店や個人店の数はもちろん、20代の若きパティシエが一人でブランドを立ち上げたりも、最近は「よくあること」らしい。
「そんな中、ただお菓子を作っているだけでは埋もれてしまうので『どうやって、何をお客さまに届けるのか』は、自分なりにずっと考えています。
看板商品をマロンパイにしたのも、ほかではあまり買えないものをお届けしたいからです。クッキーやフィナンシェではなく、少し珍しいもので勝負できたら面白いかなと思って」
そうして植田さんが選んだのが、マロンパイ。ご自分も含め、日本人には『栗』好きが多いのも、決め手になったという。
「もっとパティシエらしいキラキラしたお菓子、たとえば『ライチとバラが香るパンナコッタ』みたいなものも考えたのですが、食べることに対する敷居がちょっと高い気がして。大好きな阿佐ヶ谷の街の温かい雰囲気とも、なんだか違うなぁと。私が作れないというのもあるんですけどね(笑)。
それに栗のお菓子って、秋以外あまり見掛けませんよね。だから、季節を問わず一年通していつでもマロンパイを買えるお店として、お客さまにアピールしています」
いつも当たり前に食べていたマロンパイに、そんな戦略があったとは。
感心しながらお話を聞いていると、植田さんが「ネット販売もご用意しているので、いつでもどこでも食べられますよ」と、にっこり。
食べておいしく、目でも楽しい、ERI ORDER MADE CAKEのマロンパイ。
贈り物にも“いちおし”です。
取材・文=炭田友望/写真=CONEL、さいだー
ERI ORDER MADE CAKE(エリ オーダーメイド ケーキ)/植田さん
マロンパイと、素朴な焼き菓子のお店。看板商品のマロンパイを中心に、昼営業は焼き菓子、夜営業は生菓子を取り扱う。夜は「お疲れさま」の意味を込めて、仕事帰りにも立ち寄れるよう22時まで営業(売り切れ次第、閉店)。阿佐ヶ谷で飲んだあとの〆として、定番になる日も近い。
・活動キッチン:FOOCO(阿佐ヶ谷)
・営業日:月3、4回+イベント出店 ※詳細はInstagramをご確認ください。
・Instagram:https://www.instagram.com/eri_ordermadecake/