\CONELメンバーインタビュー/
店主の『いちおし』なんですか?
Vol.01 Momofuku Bakeshop/ローズマリーオートミールクッキー
CONELメンバーが作るお菓子は、一つひとつが個性的。
個人で製造から販売まで行なっているお店がほとんどだから、味はもちろん、材料やラッピングまで、作り手の「これが好き!」が詰まっています。
そんな魅力的なお菓子のなかから、店主が選ぶ『いちおし』をご紹介。
第一回目に登場するのは、Momofuku Bakeshopの荒堀さん。
行くたびに変わる焼き菓子のラインアップに、多くの人が魅了されています。
■何度も通いたくなるヒミツは「種類の豊富さ」
ある水曜日の昼下がり。清澄白河にある「のらくろード商店街」には、ちいさな列ができていた。みんな店内の様子が気になるのか、シャッターの上がる瞬間をチラチラとうかがっている。
「今日は、どんなお菓子が並んでいるのか」
Momofuku Bakeshopに足を運ぶひとたちの、いちばんの関心事だ。
決して大きくはないシェアキッチンの厨房で、なぜそんなに多くの種類のお菓子を用意するのか。店主の荒堀さんに聞いてみた。
「焼き菓子屋さんって、その日焼いた5~6種類と、個包装のマドレーヌやフィナンシェを用意するお店が多いと思うんです。でもそれだと、そのお店には一回行けば満足しちゃいますよね。
私、食いしん坊なんです(笑)。東京だけでも星の数ほどお店があるなら、自分だったら次は違うお店に行きたくなっちゃう。だから私のお店へ来てくださるお客さまには、来るたびに違うお菓子と出会える喜びと、選ぶ楽しさを味わってもらいたいんです」
なるほど。どうりでMomofuku Bakeshopに訪れるたび、トングを持ってはあっちへウロウロ、こっちへウロウロしてしまうわけだ。
種類の豊富さ以外に、もう一つ特徴的なのがその価格だ。どれもお手頃で、クッキーは200円代から、ケーキも300円代から用意がある。
「私が目指しているのは、誕生日やクリスマスだけ足を運ぶようなスペシャルなお店ではありません。気軽に、かしこまらずに、小銭だけ持って普段着でふらっと来られるお店にしたいから、値付けは大切にしています。
もちろん、企業努力もしていますよ。例えばモンブランに使うマロンクリームは、秋が終わって安くなる頃を見計らって、材料のマロンピューレを『底値』で買って保存しておきます。モンブランは秋が終わっても人気があるのに、製菓業界はイベントがひと段落するとすぐにセールになるんです! そうやって、いい材料を安く手に入れて、お財布にやさしいお値段で提供しています」
■多くの人を惹きつける“おいしい基準”が出来るまで
こどもの頃から、お菓子づくりや料理を楽しんでいた荒堀さん。子育てがひと段落したことをきっかけに「好きなことを仕事にしよう!」と、あるブーランジェリーで働きはじめたそう。
パンに加え、デリやお菓子も取り扱うお店だったそうだが、当時のお話についてはなんだか歯切れが悪い。
聞けばその勤め先は、おいしいものが大好きな荒堀さんにとって「本当にそれでいいのかな」と、疑問に感じる出来事が多かったそう。
「たとえば、焼き立ての皮がパリッとしたチキンがショーケースに並んでいるのに、昨日焼いた売れ残りの皺々のチキンから売るように、シェフから言われるんです。パートながらに『そんなことしたら、お客さまはもう二度と来てくださらないんじゃ?』と不安で……。
その時は20秒ほど葛藤してから心を決めて、新しい方から渡したんですけどね。あとで大目玉をくらいました(苦笑)」
なかでもいちばん印象に残っているのは、マーガリンでパウンドケーキを作ったパン職人さんだそう。パウンドケーキは「小麦粉・バター・砂糖・卵」をそれぞれ1ポンドずつ使うことから、その名が付いたケーキ。
バターをマーガリンに変えて、果たしてパウンドケーキと呼べるのだろうか。疑問に思いながら荒堀さんにたずねたところ「職人さんによってお考えは色々ですし、経営上の判断もあったのだと思います」と丁寧に前置きしてから、答えてくれた。
「材料を同じ分量で使用しているなら、バターをマーガリンに変えても『パウンドケーキ』なのかもしれません。でも、焼いている時の匂いからしてバターとは別物なんです。香料も加えなかったようで、お菓子を作るうえで大切な香りもありませんでした……。
思わずその場にいた同僚と顔を見合わせて『本当にこれを売るんでしょうか?』と、聞いてしまいました。マーガリンおじさんは『ハハハ、こりゃ手厳しいな~』なんて言うんですけどね」
はじめは「パン職人さん」と呼んでいたのが、いつの間にか「マーガリンおじさん」に変わっている。荒堀さんには、確固とした“おいしい基準”があるようだ。
「このお店の“おいしい”への考え方は、私とは違いました。でもそのことがあったから自分の基準がクリアになり、今につながっていると思います。
バターをマーガリンにしたところで、材料費はほんの数百円しか変わりません。それなら、また食べたくなるような魅力的な商品を作って、多くのお客さまに買っていただくことで利益を出す。
材料はケチらない、おいしいものを作る。それが私の信条です」
ひと言ずつから、荒堀さんのお菓子に込める想いが伝わってくる。
そう伝えると、「おいしかったら、お客さまは必ずリピートしてくださるはずです」と力強く答えてくれた。「お店を開けるのは、毎回真剣勝負」とも。
Momofuku Bakeshopのお菓子には、これでもかと“おいしい”がつまっている。
■実は苦手だった、ローズマリー
定番のクッキーやスコーン、季節の果物を焼き込んだ日替わりのケーキや、朝食がわりにもなるセイボリーマフィン。
様々なお菓子が並ぶなか、荒堀さんのいちおしの品が「ローズマリーオートミールクッキー」だ。
「実は昔はローズマリーが苦手……というか、嫌いで。お洒落だから作ったお料理に乗っけたりしてたんですが、自分のお皿からは外しちゃったり。
そんな私が自信を持っておすすめするのが、このクッキーです。ローズマリー嫌いの方もぱくぱく食べられて、きっと『嫌い』が『好き』に変わると思います」
「いちおし」を聞いたのに、まさかの「嫌い」発言に、思わず笑ってしまう。
そんなに嫌いだったローズマリーを使ったクッキー作りはじめたのは、あるお店に置いてあったクッキーとの出会いがあったからだそう。
「ローズマリーの爽やかな香りと、オートミールのザクザク感の組み合わせに『なんだこれは!?』と衝撃を受けました。食べ終えるとすぐに『また食べたい』と感じる味なんです。ローズマリーが繊維のようにたっぷり入っていて、まるで“馬のおやつ”のような見た目にもビックリしました(笑)。
そのお店には自転車で買いに行っていたんですが、最後は急な坂を上らないと辿り着かないから、途中で自転車を降りて、えっちらおっちら押しながら通って」
そうまでして食べたい味を、荒堀さんが「自分で作ってみよう!」と思うまで、そう時間はかからなかった。30回は優に超える試作を重ね、出来上がったのが現在の「ローズマリーオートミールクッキー」だ。
本家では焼き込んであったドライフルーツは、外してよりシンプルに改良。その代わり、オートミールをよりたっぷりと配合し、なんと生地に占める割合は、粉よりオートミールの方が多いんだとか。ほかにも砂糖の種類や量、ローズマリーの分量などを調整して、やっと完成した自慢の一品だ。
地味な見た目だがファンが多く、購入枚数を制限することもあるんだとか。
「おひとり様二枚までって書くと、はじめてお店に来た方も『なになに?』って興味を持って買ってくださるから人気、というのもあるかもしれません(笑)。なるべく切らさないようにご用意しているので、ぜひ一度召し上がってくださいね」
ローズマリーが好きな人も、嫌いな人も、水曜日はMomofuku Bakeshopまで。
取材・文/炭田友望、写真/CONEL
Momofuku Bakeshop(モモフク ベイク ショップ)/荒堀さん
CONEL お菓子職人紹介
清澄白河の地元民から熱い支持を得る、焼き菓子店。常時20~25種類が並ぶ焼き菓子は、すべてが当日に焼いたもの。定番のクッキーやサブレ、キッシュ、季節のくだものを焼き込んだケーキなどが揃う。
・活動キッチン:conato|粉と(清澄白河)
・営業日:ほぼ毎週水曜日&ときどき土曜日/13:45~17:30頃(売り切れ次第終了)
・Momofuku Bakeshop:https://www.instagram.com/momofuku_bakeshop/