\CONELメンバーインタビュー/
店主の『いちおし』なんですか?
Vol.08 L’atelier de TAKAKO/和三盆プリン
CONELメンバーが作るお菓子は、一つひとつが個性的。
個人で製造から販売まで行なっているお店がほとんどだから、味はもちろん、材料やラッピングまで、作り手の「これが好き!」が詰まっています。
そんな魅力的なお菓子のなかから、店主が選ぶ『いちおし』をご紹介。
今回登場するのは、帝国ホテルやキルフェボンでパティシエとして働いてきた、L’atelier de TAKAKO(ラトリエドゥタカコ)のタカコさん。
いちおしは、素材の一つひとつにこだわった「和三盆プリン」です。
■フランス帰りの料理人・タカコ
毎週水曜日。阿佐ヶ谷にあるFOOCO(フーコ)の店先に、コックコートを着た女性が立っている。金髪ということもあり、ほんのちょっぴり身構える人もいるかもしれない。けれど、お客さんと言葉を交わすたび、カラッとした楽しげな声を響かせながら笑うタカコさんを見ていれば「怖い人ではなさそう」と感じるはず。
タカコさんは、帝国ホテルとキルフェボンでパティシエとして働いてきた華やかな経歴がありながら、気取らない、気持ちのいい人だ。パティシエになったきっかけも、こんなふうに語ってくれた。
「元々は芸大で陶芸をやりたかったんですけど、狭き門すぎて落ちちゃったんです。でも浪人はしたくないしと悩んでいたら、高校のクラスメイトに料理の専門学校のオープンキャンパスに誘われて。行ってみたらすごく楽しくて『料理もアートだよね!』と思い、料理の道へ進んだんです」
この時高校生だったタカコさんは、画塾(美大を目指すための塾)に週4日通い、粘土や立体彫刻を学び、6時間ぶっ続けでのデッサンに取り組むなど真面目に勉強していたという。だが、すぐに気持ちを切り替えて違う道へ進むのが、なんだか今のタカコさんに通じている気がする。そうして大阪にある辻調理師専門学校へ進み料理を学び、フランスへの留学も経験。卒業後は、代官山にあるフレンチのレストランにシェフ見習いとして就職したそう。
「シェフがフランスの方で『フランス帰りならオッケーだよ』と、すぐに雇われました。フランス語がある程度話せるなら、誰でもよかったのかもしれません」
あはは!と笑うタカコさん。ただ、このお店の定休日は日曜日のみ。朝の9時から夜23時までほんの少しの休憩時間を挟みつつ仕事をこなし、手取りは12万円。自分の時間がまるでなく、将来のことを考えて試用期間が終わると同時に辞めたそう。
そして次の職場として選んだのが、キルフェボン。フロム・エーに求人が載っているのを見て、調理師学校に進む時と同じく「ケーキって華やかで面白そう! アートだし!」と、面接を受けに行ったという。ただ、この時点のタカコさんは料理人。フルーツタルトが有名なキルフェボンで、そんなに簡単にパティシエになれるものだろうか。
「本来はレジ打ちや販売員で経験を積んでから、ケーキづくりを任されるそうなんです。ですが採用されたお店のパティシエがちょうど足りなくて『フランスに行ってたなら、ケーキも作れるよね』って(笑)。
いちおう『フランスに行ったとはいえ、お菓子ではなく料理ですけど……』と伝えたのですが、あれよあれよと話が進み、パティシエとして働けることになりました」
こうしてパティシエデビューを飾ったタカコさん。入社後すぐの2週間、全国の店舗の中でいちばん売上のあった、超多忙な青山店で修行。当時25種類ほどあったタルトを、画塾時代に培った集中力で一気に習得する。その後は配属先の店舗に戻り、パティシエとして2年間みっちり働いたそう。
だがある日「私、このまま来年も再来年も、同じようにケーキを作るの!?」と危機感を覚えたタカコさんは、またフロム・エーを開く。
次の就職先として目星を付けたのは、帝国ホテル。ケーキ店とは違い、婚礼やパーティーなどで大量のデザートを作ったり、ケーキ単体ではなくお皿に美しく盛られたアシェット・デセールなどにも携われるのが理由だ。この時も、フランス留学とキルフェボンでの経歴があり、あっさりと内定が決まったそう。「こうして振り返るとフランスの力、すごいですね」と笑いながら振り返る。
■マルシェプロデューサー・タカコ
帝国ホテルでの職は、妊娠を機に退職。産後も働き続けるイメージが沸かなかったという。上司や同僚には惜しまれたそうだが「立ち仕事だったし、時代もありますよね」と、さっぱりとしたタカコさん。
しばらく子育てに専念したのち、2020年より「L’ atelier de TAKAKO」として、お菓子教室をはじめる。2022年からは、FOOCOの店頭でお菓子の販売もスタート。一番人気の商品はカヌレだが、いちおしとして選んだのは和三盆プリン。突然の「和」の要素に少々驚きつつ、理由をたずねてみた。
「またフランスの話になっちゃうんですが、留学中にあちらの方と話すたびに『なにが君の国の誇りなの?』って聞かれたんです。特に私が京都出身だとわかると『お花やお茶を教えてよ』とお願いされることもよくあって。
でもその時私は19歳で、お寺ばっかりあって夜になるとお店がすぐに閉まっちゃう京都をつまんないな~って思ってたから、お花もお茶もやってなくて。お隣の大阪は遊ぶところが多くて、ちょっと羨ましかったくらい(笑)。
でも、外の世界に出たことで、京都で当たり前のように触れてきた“伝統”が持つ良さに気付くことができたんです」
この留学先での問いがきっかけとなり、日本の伝統技術に興味を持つようになったタカコさん。今では「テーブルスタイル茶道」という、自宅に和室がなくても椅子とテーブルで楽しめる茶道の認定講師の資格を持つなど“伝統”を日々の暮らしに取り入れている。
とはいえ需要がないものは、いくら素晴らしい技術や培われてきた歴史があっても、廃れていってしまうのが世の常。そこで、自分が磨いてきた洋菓子の技術と日本の“伝統”を掛け合わせることで、新しい価値あるものを作り出せるのではと考えた。そうして生まれたのが、和と洋の要素を持つ和三盆プリンだ。
この和三盆プリンに使われているのは、徳島産の阿波和三盆。「竹糖(ちくとう)」と呼ばれる在来品種を使い、昔ながらの製法で作られている。すうっとした口当たり、あとに残らない上品な甘さが特長だ。5kgで15,000円と、スーパーに売られている一般的な白砂糖の10倍以上の値段だが、タカコさんは「買い物は投票だから」と言い切る。
「和三盆プリンに使っている卵も、大分にあるグリーンファーム久住さんの平飼い有精卵を使っていて、安くはありません。でも、伝統的な平飼いでのびのびと育った鶏が産む卵がいい。ケージに閉じ込められてストレスが多い鶏が産む卵は、たとえ安くても抵抗がある。そんなふうに考える人を、私のお菓子を通して増やしたいんです。そうすればきっと、良いものは残り続けるから」
そう語るタカコさんは最近、マルシェを主宰している。月2回、シェアキッチンのメンバーや、他のマルシェで知り合った農家さんなどを集めてマルシェを開催しているのだ。自分ひとりでお菓子を作るより、より多くの人に“良いものの価値”を伝える場となり、やりがいがあるそう。
パティシエの域を超え、すっかりプロデューサーとなったタカコさんの活躍は、続いていく。
取材・文=炭田友望/写真=CONEL
L’ atelier de TAKAKO/タカコさん
店名は「タカコのアトリエ」という意味。主宰マルシェは、月2回ほど「パーシモン中野」で開催中。今後さらに他のエリアでのマルシェも考えているそう。また、この4月から文京区・護国寺にあるカフェ「Otowa Avenue」でシェフとしても活躍中。
・活動キッチン:FOOCO(阿佐ヶ谷)※2024年5月まで
・Instagram:https://www.instagram.com/latelier_de_takako/
・ネット販売:https://latelierdetakako.square.site/
「和三盆プリン」に使われている材料
・服部製糖所(和三盆):https://www.awawasanbon.com/
・グリーンファーム久住(卵):https://kuju-egg.jp/
・木次乳業(牛乳):https://www.kisuki-milk.co.jp/