\CONELメンバーインタビュー/
店主の『いちおし』なんですか?
Vol.11 BLANKET BAKESHOP/ダークチェリーのマフィン
CONELメンバーが作るお菓子は、一つひとつが個性的。
個人で製造から販売まで行なっているお店がほとんどだから、味はもちろん、材料やラッピングまで、作り手の「これが好き!」が詰まっています。
そんな魅力的なお菓子のなかから、店主が選ぶ『いちおし』をご紹介。
今回登場するのは、BLANKET BAKESHOPの橋本さん。
グルテンフリー&低レクチンのお菓子屋さんです。
悩みに悩んだ末選んでくれた「いちおし」は、ダークチェリーのマフィンです。
■グルテンフリー&低レクチンのお菓子、BLANKET BAKESHOP
BLANKET BAKESHOP(以下、BLANKET)の店頭に並ぶお菓子は、どれもがシンプルながら焼き目ひとつ一つがいかにも美味しそうな色合い。特にケーキ類はボリュームたっぷりで、食べ応えがありそうだ。そう伝えると、店主の橋本さんが「どれも地味ですが、食べすぎ注意です」と、いたずらっぽく笑う。いちおしのマフィンをひと口食べれば、しっとりほろほろな食感と共に、ダークチェリーの味わいが口の中にじゅわっと広がる。グルテンフリーにありがちな味気なさは全くなく、ダイレクトにお菓子の美味しさが伝わってくる。
BLANKETは、グルテンフリー&低レクチンなお菓子を作っているお店。コンビニやスーパーなどでも目にする機会が少しずつ増えてきた「グルテンフリー(小麦粉不使用)」とは違い、耳慣れない「低レクチン」という言葉。
レクチンとは、植物の種子や皮などに含まれるたんぱく質の一種で、橋本さん自身も自分が「レクチン」が含まれた食べ物を口にすると体調が悪くなることに気付いたのは、ここ数年のことだと言う。それまでは、なんだか体調が悪いという状態がなんと10年以上も続いていたそう。
「不調の原因が分からなくて、胃カメラを飲んだり、大腸検査をしたり、血を抜いてアメリカに送って検査なんかもしました。そこまでしたのに原因不明で。
それが3年前、気に入って何度も作っていたバナナのパウンドケーキを食べたらすっごく具合が悪くなっちゃって、検索したらバナナには『レクチン』が含まれていると出てきたんです。試しにレクチンが含まれるという食べ物を絶ってみたら、それまで月に4日ほど頭痛で寝込んでいたのが一切なくなりました。なんなら今は、15年前より元気です(笑)」
レクチン自体は100年以上前に発見された物質だが、アメリカの医師がレクチンフリーの食事療法を提唱するまで、光の当たらない存在だった。それが、この医師による食事療法本『食のパラドックス 6週間で体がよみがえる食事法(翔泳社)』が2018年に日本でも出版されヒットしたことで、橋本さんの目にも留まったようだ。
しかし、レクチンはほぼあらゆる植物に含まれている上に、小麦のグルテンにも多く存在するため、日常生活で食べられるものがかなり限定されることとなる。橋本さんの場合、レクチンが含まれた材料でも圧力鍋にかければある程度影響を受けずに済むため、普段の食事は何とかなるそう。だが、困ったのは甘いもの。お菓子づくりに使われる小麦粉を圧力調理するわけにはいかず、元々お菓子づくりが大好きだった橋本さんにとって、原因は分かったもののショックは大きかったという。
「それなのに主人が、グルテンフリーで低レクチンなお菓子を『作ってみなよ!』といかにも気軽な感じで言うんです。世の中のグルテンフリーのお菓子がどんな味なのか、知らないの? 無理だよ! って、大泣きして喧嘩しました。
でも3日くらい泣いたらちょっと気持ちが落ち着いたので作ってみたら、子供の頃からのお菓子づくりの経験が活きたのか思ったよりもおいしくできて(笑)。無事に仲直りしました」
ちょっと照れくさそうに振り返る、橋本さん。この出来事が、BLANKETがはじまるきっかけとなる。2年以上の月日をかけて試作を重ね、数多くラインアップしたBLANKETのお菓子を、ぜひ味わってほしい。
■喧嘩しながら二人三脚。目指すは、グルテンフリー界の「ウエスト」
BLANKETがお店として本格的に活動をはじめてから、まだ半年ほど。だが、お菓子ひとつ一つに貼られたシールやラッピング用の包み紙、ロゴ入りトートバッグやお店の演出など、全体に統一感がある。シェアキッチンはひとりで切り盛りするお店が多いので、はじめのうちはなかなかそこまで手が回らず、段々と洗練されていくお店がほとんど。わずか半年で既に「ブランド」として確立している印象のBLANKETは、シェアキッチンの中でもちょっとした注目の的だ。もちろん、お客さまからの評判も上々で、既にリピーターもいるんだとか。
「私、子供の頃からいろんなデザインが気になってしょうがなかったんです。『ガードレールはなんであんな形なんだろう? もっと景観に馴染む形にすればいいのに』とか『炊飯器なのに、飛んでいきそうなデザインなのは変!』とか、ずっとモヤモヤしてました(笑)」
橋本さんの言う「飛んでいきそうなデザイン」とは、家電なのに羽ばたいてゆきそうなスピード感のあるデザインという意味だそう。確かに昭和の家電は、スポーツカーのようなヘアライン加工がしてあるものが目につく。
「元はアクセサリーの製作をしていましたが、それもはじめは既存のパーツで作っていたのが満足できなくなって、自分で形を作るところからできる『彫金』の道へ進んだんです。
何でも自分のイメージに沿って一から作りたい気持ちが強いので、BLANKETにもそれが現れているんだと思います」
今思えば随分と生意気な子供ですね、と振り返る橋本さん。そんなこだわりのある橋本さんの心強いパートナーが、デザイナーの夫さん。キッチンへの送り迎えや食材の運搬、マルシェ出店の手伝いをはじめ、本業を活かしてデザイン面でも橋本さんをサポートしている。
夫さんもこれまたこだわりがあるそうで、日々忌憚のない意見を交わし合い、時にはちょっとしたバトルを挟みながら、BLANKETの世界観を作っている。BLANKETのロゴの完成までは、なんと2ヶ月を有したそう。過去には、「昨日のお月さまの色味」で喧嘩をしたこともあるというから驚きだ。
「前の日の晩のスーパームーンがきれいだったので『いつもより赤みがかってたね』と言ったら、主人が『いや、黄味の方が強かった』って返すから、そこからお互い一歩も譲らずに夜中の3時まで言い合いになったんです……。記憶を元に喧嘩するなんて馬鹿馬鹿しいですよね」
苦笑いをしているが、そんな頼れるパートナーがいるからこその「BLANKET」なのだろう。橋本さんの言葉の端々から、夫さんへの信頼が伝わってくる。
BLANKETというブランド名は、橋本さんが幼少期、お気に入りの毛布を手放せない子供だったことに由来している。グルテンやレクチンなど食べられないものがあっても、お菓子を食べたいという気持ちを毛布のようにBLANKETがやさしく包み込みたいという想いから。
夢は大きく、グルテンフリー界の「ウエスト」。あれもこれも食べられないと嘆くのではなく、ウエストくらい当たり前に手に取れるような存在になりたいと、橋本さんは語る。
「おばあちゃんになるまでには!」とのことで、夫さんとの二人三脚ならきっと実現するだろう。10年後、20年後のBLANKETが楽しみだ。
取材・文=炭田友望/写真=CONEL、BLANKET
BLANKET/橋本さん
2021年、突然小麦粉やバナナ、ピーナッツ等のレクチンを多く含む食材が食べられなくなり、いつか販売したいと考え準備を重ねていた焼き菓子のすべてをグルテンフリー、レクチンレスに切り替えました。その後も試作を繰り返し、2023年11月から販売を開始。
小麦粉を制限されている方が気軽にお菓子を買える世の中になる様に、グルテンフリーでも小麦粉のお菓子に負けない美味しさを追求し、食事制限の無い方でもまた食べたくなるようなお菓子を作り提供していき、「グルテンフリー=美味しくない」といったイメージを払拭していきたいと考えています。
・活動キッチン:FOOCO(阿佐ヶ谷)
・Instagram:https://www.instagram.com/blanket_bakeshop