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洋梨といえば缶詰だった頃

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お店で洋梨を見かける季節になるとふと思い出しては切なく、そしてちょっと悲しくなる出来事があります。

自分が中学生の頃というはるか遠い昔の出来事なのですけれどいまだに鮮明に記憶の中にあります。

私の家には常にいろいろな果物や野菜がありました。買ってくるのではなく、父の仕事の関係でやってきていました。みかんやリンゴ等は、両親が普通にただ食べたくて買うことももちろんありましたが、それ以外に、勤務先で新しく仕入れたもの、輸入したものを、これから販路を広げて行くかどうか等を決める対象となったような果物を持って帰ってきていたのです。この話をすると羨ましがられることも多かったけれど、私は父には申し訳なかったのですが当時は全然有難みを感じていませんでした。なぜかというとやってくる量がハンパなかったのです。

例えば台湾バナナ、一房に20本位ついているような房が大きな箱に入って五つとか、ライチが段ボールにぎっしりとか。

国内のいろいろな種類の桃も、来る時は常に箱単位。プラムも然り。メロンも然り。ブドウも然り。

それらは玄関先に置いてあったので帰宅すると果物が追熟していく甘い香りが漂っていることが夏から秋は特に多かったのです。

母からは、悪くなる前に早く食べちゃって!と毎日急かされ、自分が食べたいと思う量以上を無理をして食べていたせいか、実は今でも私は桃とメロンにはさほど心ときめかなくなっています。これも後遺症でしょうか。

話がそれました。洋梨の話でしたね。私が中学生だった当時の日本では、洋梨は市場に浸透しておらず、洋梨イコール缶詰の時代。フルーツポンチに入っている異国の果物といった感覚です。ある日、いつものごとく父が持ち帰ってきた箱入りの洋梨が追熟を経て一斉に柔らかく甘い香りを漂わせはじめていたので、母がお弁当の時にお友達にもあげて!と大きめのタッパーに大量に切って持たせてくれました。ちょっと面倒くさいなと思ったのですが言われるままに持って行き、やがてお弁当の時間となり、いつも一緒に食べているグループや近くの席の子たちにも勧めました。

ほとんどの日本国民が缶詰の洋梨ではない生の洋梨を食べたことがない時代です。

洋梨ってきちんと追熟すると本当に甘くとろけるようで、外国産の未熟な甘くもない硬い洋梨をシロップで煮た缶詰と変わらないくらい柔らかく甘い物なのです。

とても仲良かった友達が、一口食べて

これ缶詰でしょ?生だなんて、それ嘘ついてるよね、とニヤッと笑いました。

いくら説明しても信じてもらえませんでした。周りの子も何も言わなかったけれど、たぶん同じように思っていたのを気配で感じました。私はとても悲しくていたたまれず、その日の夕方帰宅してからまだいくつも残っていた紙に包まれた洋梨をふたつ持ち、彼女の家に持って行きました。母の友人でもあった彼女のお母さんも玄関先に出てきて、「まあありがとう!お母さんによろしくね!」と受け取ってくれて、横に立っていた友達はなんとも言えない表情をしつつも無言でした。謝ってほしかったわけではないのだけれど、なんだかとてもやるせなくて、半べそかきながら家に帰ってきたのでした。その後の記憶はないので、多分いつもの中学生の日常に戻っていったのだと思います。

完熟の洋梨は美味しい。

けれど、切ない。そして中学生はまだ青い。

そんな話でした。

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